黒田官兵衛の一族は各地を流浪し、住む家もない貧窮の底にあったが、家伝の目薬によって財をなし、その後の飛躍につながる土台をつくった──。NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』によって、姫路市の広峯神社を舞台とする黒田家の目薬商いはすっかり有名になりましたが、これが史実かどうかについては賛否両論があります。この話をはじめ官兵衛の所伝には虚実不明の話が多いのですが、眼科医学史、金属考古学、民俗学、地名研究、系図研究など各分野の専門家が伝説の背景から、黒田官兵衛を生んだ歴史的風土とは何かを考えています。

 

目次、参考文献をこちらに掲載しています。

 


そのひとつは、播磨国における鉄をはじめとする金属の文化です。地名研究者からは、黒田は「鉄」にかかわる地名であり、その居住地を苗字とした一族が黒田氏であるという見解が示されています。黒田氏と鉄の文化とのかかわりを検討することは、本書の柱のひとつです。


黒田家の目薬伝説を信仰という切り口からも探ってみました。「目」の信仰は「鉄」の文化とかかわり、一つ目で足なえ(片足)の金属神が鍛冶に信仰されていました。この信仰を踏まえると、目薬伝説と官兵衛が足なえと伝わることは関係あるようにも見えます。古代の金属神である一つ目の神は中世において忘却された存在でしたが、戦国時代、金属への需要の拡大を背景として再び、信仰の対象として復活したといいます。没落していた一族の復活を記す黒田一族の目薬伝説と共通する要素があります。


官兵衛は有岡城幽閉のあと、足を傷め、歩行が不自由になったといわれていますが、これが史実かどうかもはっきりしません。武田信玄の軍師・山本勘助も官兵衛と同じく、「大河ドラマ」の主役でしたが、二人には足なえの軍師という共通点があります。死の直前のヤマトタケルも歩行不自由者です。足なえの英雄、足なえの神としての官兵衛も本書の検討対象です。


本書は8人の専門家による語り起こしの論考集です。「目」と「鉄」をキーワードとして、ふだんあまり耳にしない黒田一族にまつわる話を集めました。黒田氏をめぐる現代の説話集のようなもので、このほかの話題は以下のとおりです。


広峯神社の宮司家(広峯氏)の遠祖は、一つ目の金属神を祀っていた/黒田氏の祖地(兵庫、岡山、滋賀)にはそろって一つ目の神が鎮座/民謡「黒田節」を民俗学的に分析し、聖なる槍の物語として読み解く/山中鹿介と黒田官兵衛は血縁者かもしれない?豪商鴻池系図の謎。


奥沢康正 

眼科医。眼科に関する医学史研究の第一人者。京都市の生家は天保年間からつづく眼科専門の医家。主な著書は『眼科医家人名辞書』、『京の民間医療信仰 安産から長寿まで』、『眼病に効く温泉』。


浦上宏  

地名研究者。岡山県瀬戸内市長船町に住み、岡山県内を主なフィールドとして製鉄や鍛冶にかかわる地名を研究。主な著書は『地名と人々の営み』、『岡山県内の製鉄小字地名』。


 芝本満

兵庫県黒田庄町(現西脇市)生まれ。旧黒田庄町役場に勤務。「黒田庄の歴史を学ぶ会」を主催。「北播磨黒田官兵衛生誕地の会」の事務局次長をつとめる。


 神崎勝 

金属考古学の第一人者。兵庫県多可郡教育委員会などで長らく埋蔵文化財を担当。主な著書は『冶金考古学概論』、『加古川流域の古代史 上・中流篇』、『鉄と銅の生産の歴史』。

  芥田博司 あくた ひろし

播磨鋳物師棟梁家芥田五郎右衛門家の現当主。姫路市在住。


宝賀寿男 

系図研究者。日本家系図学会会長、家系研究協議会会長。主な著書は、『古代氏族系譜集成』、『「神武東征」の原像』、『豊臣秀吉の系図学』。


長谷川博美    

國學院大學文学部神道学科卒業。滋賀県民俗学会理事。城郭研究者としては、主に近江の中世山城を調査している。滋賀県米原市在住。


蒲池明弘

読売新聞社勤務を経て、桃山堂株式会社を設立。2014年より、豊臣秀吉とその家臣、一族にまつわる本を刊行している。